英語はゲルマン語か@ |
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2019年11月5日 皆様、KVC Tokyo 英語塾 塾長 藤野 健です。 英語はドイツ語などと同類であってゲルマン語系の一族とされますが実際はどうなのでしょうか。英語はフランス語(ロマンス語系)から1万語程度の語を借用していると前に書きましたが、それではそれ以外の他の言語からの影響はどの程度でしょうか?また他のゲルマン語とはどう違っているのでしょうか? これから暫くは言語としての英語の位置づけや成立について触れていきたいと思います。高校や大学の英語の授業では触れられる事は殆ど無いと思いますが、英語に関して知っておくべき必須の教養とお考え下さい。 今回と次回の2回では、英語成立の歴史的な側面に触れつつ、英語はゲルマン語系なのかを考えて行きます。 以下、本コラム執筆のための参考サイトhttps://ja.wikipedia.org/wiki/ゲルマン語派https://en.wikipedia.org/wiki/Germanic_languageshttps://ja.wikipedia.org/wiki/古ノルド語https://en.wikipedia.org/wiki/Old_Norsehttps://ja.wikipedia.org/wiki/クリミアゴート語https://ja.wikipedia.org/wiki/低地ドイツ語https://en.wikipedia.org/wiki/Low_Germanhttps://ja.wikipedia.org/wiki/グリムの法則https://en.wikipedia.org/wiki/Grimm's_lawhttps://ja.wikipedia.org/wiki/ヤーコプ・グリムhttps://ja.wikipedia.org/wiki/ヴェルナーの法則https://en.wikipedia.org/wiki/Verner's_lawhttps://ja.wikipedia.org/wiki/ウムラウトhttps://ja.wikipedia.org/wiki/V2語順https://ja.wikipedia.org/wiki/大母音推移https://en.wikipedia.org/wiki/Great_Vowel_Shift |
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ゲルマン語とは ゲルマン語派はインド・ヨーロッパ(=印欧)語族の中の1つの語派であり、紀元前5世紀にゲルマン祖語が成立、その語西ゲルマン語群、東ゲルマン語群、北ゲルマン語群に分化したと考えられています。その内の東ゲルマン語群 (クリミア半島の一部で18世紀まで話されていたクリミアゴート語など)は死語となっています。 北ゲルマン語群には、デンマーク語(デンマーク)、ブークモール語(ノルウェー)、スウェーデン諸語、アイスランド語(アイスランド)、ニーノシュク語(ノルウェー)、フェロー語が含まれ、他方、西ゲルマン語群には、英語、フリジア語、東低地ドイツ語、オランダ語(オランダ)、高地ドイツ語(標準ドイツ語)が含まれます。 要は、北ゲルマン語は古ノルド語を祖語とする言語ですが、北欧諸国並びにアイスランドで話される諸語です。一方、西ゲルマン諸語はそれ以外の地域で使用される諸語ですが、大きく分けて、アングロ・フリジア語(ブリテン島周辺の英語並びにオランダの北東小地域での フリジア語)、低地ドイツ語(オランダ語、フラマン語、北部ドイツ語)、並びに高地ドイツ語(標準ドイツ語)の3つに分類されます。ヨーロッパの中での分布を見ると、ロマンス諸語(スペイン、ポルトガル、フランス、イタリア、ルーマニア語などの俗ラテン語)圏並びにスラブ語(ポーランド、ユーゴスラビア、ロシア、ウクライナ語など東欧で使用される語)圏に比して、意外にこじんまりとした範囲で使用される言語に思えます。しかし世界に目を向けると、北米、豪州、南アフリカ等の入植地でも利用され、総計5億1千5百万人のネイティブスピーカーにより利用される言語です。尤も、例えば北米でカナダと米国合わせて3億人が英語を使用する計算ですので、ゲルマン諸語のヨーロッパでの使用人口は合計2億人となります。その内訳ですが、ノルウェーが人口533万人、スウェーデンが991万人、デンマーク571万人、アイスランド36万人で北ゲルマン語で合計2000万人、オランダ1731万人、ドイツ8300万人、英国6644万人で西ゲルマン語で1億7千万人となります。ドイツ語と英語の勢力が強いですね。 余談ですが、東京都の人口が1361万人ですので、東京の周辺地域を少し加えるだけで2000万人を超え、北ゲルマン諸語の話者を凌駕します。日本語話者数は1億2500万人と推計され、成立不明の孤立言語とされ、使用地域は日本列島にほぼ閉じ込められているものの、意外や大きな勢力の言語であることが分かります。話者数では世界第9位の言語です。日本語は言語としての完成度並びに充実度が高く、他国語の出版物を日本語に遜色なく翻訳、出版できますが、これが不可能な(=高度な概念を表す用語を持たない)言語が多く、例えば英語の本をそのまま児童や学生の教科書として使わざるを得ない、その方が手っ取り早い言語の国々も多いのです。 |
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ゲルマン語の歴史 ゲルマン祖語は BC 500年頃の鉄器時代にスカンジナビアで話されていたと考えられていますが、BC 200年頃にゲルマン民族大移動の開始に伴い、現在の北ドイツ及び南デンマークにまで拡大しました。祖語並びに以後の派生語も全て、インド・ヨーロッパ祖語からグリムの法則と呼ばれる子音変化(例:ラテン語のpater パ−テル→ 英語の father、p が fに変化)、並びにヴェルナーの法則として知られる音韻推移(印欧祖語でp, t, k が強勢のない音節の直後に来る場合有声閉鎖音 b, d, g として出現、例:pater のt がfather のth d音に移行)を来しているとのユニークな言語特徴を保持しています。似た様な変化は日本語にも起きている様に見えます。特にヴェルナーの法則は日本語で言う濁音化に近く、東日本訛りに似ている様に思います。因みにグリムの法則を発見したのはグリム童話を編纂したグリム兄弟の兄の方の言語学者ヤーコプ・グリムです。 ゲルマン諸語は、やがて言語的に変異が大きくなり、10世紀頃には互いの意思疎通が困難になりました。409年にローマ帝国がブリタンニアを放棄後に、デンマーク及び北部ドイツからのゲルマン人(アングロサクソン人)が侵入し、先住民のケルト人並びにケルト語を駆逐し辺境に追いやりました。この後、ブリテン島で話されていたのが Old English 古英語ですが、9世紀後半からのデーン人を中心とするバイキングの侵入と定着(デーンローと呼ばれるブリテン島東部地域への)は古英語の文法の破壊と12世紀からの中世英語 Middle English への移行を手助けしたのだろうと考えられています。 中世初頭には、ブリテン島での中世英語の発展、それと大陸での高地ドイツ語への子音推移に始まる高地ドイツ語と低地ザクソン語(=低地ドイツ語)の分離が始まり、近世初頭には2つの差が拡大し互いの意思疎通が困難になるまでとなりました。高地ドイツ語に見られる子音推移は低地では全く起きませんでした、 他方、北ゲルマン諸語は 10世紀まで共通のままで、実際のところ近世までスカンジナビアのゲルマン諸語間で意思疎通が可能でした。アイスランドに伝わった言語は殆ど古ノルド語 (北ゲルマン諸語の祖語)が変化せずに現在までそのままの姿が残されています。 |
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ゲルマン語の特徴1.上に述べたようにグリムの法則並びにヴェルナーの法則の成立が見られますが、この考え方は歴史言語学に於ける比較方法の基礎を与えました(比較言語学の成立)。 2.第一音節の強調の発達により、他の全ての音節部位の減少がもたらされました。これにより、英語、ノルウェー語、デンマーク語、スウェーデン語の単語の単音節化、また近代英語及びドイツ語の、子音偏重語化が起きました。例えば、ゲルマン祖語 haubudan → 英語 head。 3.ウムラウト(母音交替現象)の発生。アクセントのある母音が、後続の i、e 等の母音の発音に引きずられて e に近い発音になる現象。また、アクセントのある母音が 後続の後母音 u、o によって発音変化を起こす場合もあります。近代ドイツ語では極端なまでに残っていますが、英語では一部の単語に残るのみです(例:足 fot フォトの複数形 fotiz フォティツが i の発音に引きずられ fet フェトに変化、後に大母音推移を経て foot, feet に)。 4.母音の数が多く、英語でも11〜12個有ります。 5.V2語順の存在。基底となる語順はドイツ語、オランダ語でSOV、スウェーデン語、アイスランド語ではSVOですが、(話題としたい1つの名詞句または修飾句)+動詞+主語の語順(V2語順と言う)を取ります。まぁ、強調したい要素を先頭に持ってくる場合、動詞が2番目に配置する訳です。英語は例外的に単純にSVOの語順を取るだけですが、There is〜、Here comes 〜、Hardly did 〜(副詞+動詞)などの表現に名残が見られます。英文法では一種の強調による倒置表現扱いと学校英語では素通りされますが、それは実はゲルマン祖語の名残だった訳ですね。 他に、・時+相(例:進行中、終えた)の複雑な組み合わせが、過去時制と現在時制の2つに簡略化される。・多くの動詞では過去型を表すのに動詞の母音変化ではなく、末尾にt, d の音を加える(弱動詞)。残りの動詞は母音交替を起こします(強動詞)。・名詞の定性(特定のもの或いは一般的なものの区別)を明確にするために形容詞を活用させます(強弱形容詞)。この区別は古英語には存在しましたが現代英語にはありません。・他の印欧語には起源が辿れず、ゲルマン諸語のみに存在し変異を示す語が存在します。 ゲルマン諸語の中で、どの程度、分析言語(個々の単語を変化せずに前置詞などを使用しまた語順を重視する)に傾いているかには違いがあります。アイスランド語は非常に、ドイツ語はそれよりは少ない程度に、ゲルマン祖語(印欧祖語)から受け継いだ複雑な活用形態を残します(統合言語と言う)が、一方、英語、スウェーデン語、アフリカーンス語(南アで使用されるオランダ語の派生語)は大幅に分析言語に移行しています。特に英語とアフリカーンス語はアイスランド語とドイツ語の対極にあり、殆ど全く活用形態を残していません。活用形を失い、分析言語化するのは第一音節に強調を置く性質がもたらしたものであることをここに再び注記します。まぁ、単語の最初の部分に重きを置き、後半を省略或いは簡略化する傾向ですね。それゆえ、言葉の後ろの部分の活用が消失する訳です。因みに、バルトースラブ語は印欧語のピッチアクセントを多く残し、それ故、祖語の格変化の非常に多くを保持します。後ろの部分にアクセントがあると活用部分も残さざるを得ない訳です。 |
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分析言語 vs.統合言語の概念は、以前コラムで扱った膠着語 vs.屈折語の概念とも関連しますが、これについては後日別項で採り上げる予定です。 |
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