英語はゲルマン語かA |
||
2019年11月10日 皆様、KVC Tokyo 英語塾 塾長 藤野 健です。 今回は英語と他のゲルマン諸語との関係並びそれ以外の言語からの影響についてざっと触れたいと思います。 以下、本コラム執筆のための参考サイトhttps://ja.wikipedia.org/wiki/ゲルマン語派https://en.wikipedia.org/wiki/Germanic_languageshttps://ja.wikipedia.org/wiki/オック語https://fr.wikipedia.org/wiki/Occitanhttps://ja.wikipedia.org/wiki/フランク人https://ja.wikipedia.org/wiki/フランスの言語政策ここにトゥーポン法に至る経緯が詳述されます。 |
||
この先のコラムにて、ノルマン・コンクエスト(フランス文化圏のノルマン人 - これは実はゲルマン系の入植者 - による 11世紀以降 300年間に亘る英国支配)について詳述しますが、その影響により、英語の語彙には 1万語ものフランス語からの借用が認められるに至りました。借用と言っても、文化交流として中国から日本に言葉が流入したのとは全く異なり、武力を背景とする征服の結果もたらされたものです。逆に言えば、この征服が起きる以前の英国には、高度な政治的、経済的、学問的な立ち位置にあった対岸のフランス文化圏と異なり、それら高度な概念に相当する言葉、或いはピタリとくる訳語にすべき言葉を語彙として持たなかったことを意味します。まぁ、5世紀にケルト人を追い出した、古英語(西ゲルマン語の一派)を話すアングロサクソン人に対し、10世紀には古ノルド語 (北ゲルマン語)を話すデーン人が侵攻するなど、言わば未開のゲルマン人同士でブリテン島のぶんどり合戦に明け暮れ、文化的には高くは無かったのでしょう。もっとも、ノルマン人は北方ゲルマン人が現在のフランスのノルマンディー地方に入植しフランス語文化圏入りしたもので、矢張り基本はゲルマン系です。 実はフランス語自体が、俗ラテン語とフランク人の話していたゲルマン語がミックスして出来た言語であり、現在のフランスの北 2/3ほどの地域で話されている言葉でした。南 1/3の方は、イタリア語、スペイン語などと同様の、ラテン語の俗化した方言である俗ラテン語の一派、オック語圏であり、現在も南フランスでは話されています。しかしフランス政府は中央集権的な姿勢を強め、この様な地方言語や方言に対し、100年以上前から圧力を加え続けています。ブルターニュ半島のブルトン人(英国側から渡来した入植ケルト人)が話すケルト語はじめオック語に禁止政策を採り続け、話者数は格段に減ってきています。 |
||
興味深い論文がありますのでご紹介しましょう。 Denglischの危険性─ドイツ語の現状について─Gudrun GRAEWE 立命館言語文化研究19巻2号 pp. 225-238http://www.ritsumei.ac.jp/acd/re/k-rsc/lcs/kiyou/19-2/RitsIILCS_19.2pp.225-238Graewe.pdf(無料で全文読めます) この論文に拠りますと、 ドイツ語は 2000年以上前から外来語の受け入れを許容してきた混成言語であり、現在のドイツ語の語彙の 80%は外国語起源のものである。(まぁ、英語に大量のフランス語が流れ込んだのと同じ様なものですね。) 外来語を調音法や綴り方でドイツ語風に仕立てた結果、話者には外来語とは判別出来なくなっている語彙も数多存在する。ドイツではすでに 17世紀から,外来語をなるべくドイツ語に翻訳しようとする動きが見られたが、これは排外的・民族主義的動機ではなく、分かり難い外来語を多くの国民が理解出来るよう言語障壁を改善する目的のものだった。ドイツ語自体には他国の学者が討論している事象に対する様な語彙が無く、周囲の国家の言語に対する劣等感を拭いたいとの意向もあってのことである。第二次大戦中の支配者は外来語を排斥するどころか、寧ろドイツ語の概念にフランス語などを当て、<高貴>なイメージを醸し出そうと意図した位だった。現在では、英語文化の決定的且つ支配的な役割 (言語帝国論との考え方もある)の元に、数多くの英語の流入が続いたままだが、ドイツ語の構造に侵食しそれを破壊する迄には至っていない。フランスが 1994年に 「フランス語使用法」 (トゥーボン法,Loi Toubon26)を制定し、外来語の排斥に乗り出したが、ドイツにはその様な法律を制定する動きは無い。しかし、ドイツ語風外来英語 Denglish の無制限の流入はやがてはドイツ語の根幹そのものを変える危険がゼロとは言えず、英語がカンブリア語や多くの北米インディアンの言語,オーストラリア先住民族の多くの言語などに取って代わり、またゲール語,ウェールズ語など幾つかの言語が英語による脅威の中にあることを考えるべきである。ドイツ語への大量の英語の流入の実情は、ドイツ語学習者に対するドイツ語の魅力を低下させるおそれもある。(抄要訳塾長) 塾長はドイツ語の素養浅く、現在のドイツ語の中に大量の英語起源の語彙が混ざり込んでいると知り、寧ろ驚いたぐらいですが、ゲルマン祖語に由来する語彙が濃厚に残されているとの考えはどうやら誤解だった模様です。しかし、話は逸れますが、英語の影響を受けたドイツ語 Denglisch デングリッシュの名はでんぐり返しを連想させます。ドイツ語の根幹は英語によりひっくり返されるまでには至っていない模様ですが・・・。 同じ印欧語ゆえになし崩しで言語浸食が進むのかもしれませんね。日本語にカタカナの外来語が入っても先住の外来語である漢語に置換してしまえば精神的にもスッキリしてしまい特に問題にもなりません。外来語をカタカナ表記するのも智恵ですね。日本語の統語が浸食されることは考えられません。それよりも日本語を豊かにさえしてくれる様にも感じてしまいます。<言語強靱性>が高いとも言えそうに思いますが如何でしょうか。まぁ、漢語なる鎧を得た言語ですね。 ミロス・フォアマン監督の 1984年公開の映画 『アマデウス』 にて、ドイツ語でオペラを作ったらどうかとの問いかけに、バッハ風?のカツラを纏ったイタリア人音楽家 (Patrick Hines が演じる Kapellmeister 楽長 Giuseppe Bonno)が ヨーゼフ2世 (マリー・アントワネットの兄)に対し、イタリア語に比べてドイツ語は卑しい言葉ですからとおどおどして遠慮がちに述べる1シーンがあり (開始後約25分)、塾長の記憶に残っています。芸術文化咲き誇るイタリア語からの当時のドイツ語に対する低評価が見て取れるシーンですね。 |
||
論文著者の GRAEWE 氏がドイツ語への大量の英語の流入を問題提起する一方、ドイツ語はゲルマン祖語由来の複雑な格変化、時制、相表現を色濃く残しており、言語形態としては強固な屋台骨がある様に見えます。1億人近い話者数が存在することを鑑みると、高度な文化を持たない少数話者言語が英語に呑み込まれ言語交替、消滅して行くのと同様の道筋を辿るとはとても思えず、上手く消化されて行く様に塾長は思います。 この様に考えると、英語に対して大量のフランス語の流入があったにしても、英語の言語形態そのものに必ずしも影響をもたらしたとも考えられず、英語の格変化、活用の減少、消滅は、英語が離れ小島の中に閉じ込められ、ゲルマン祖語圏のグループから離れる地理的隔離の元で、固有の簡略化を来した可能性を考えて良いと思います。フランス語由来の語彙は、日本の小学生が漢字熟語を学習する様に、英語話者の学習の進度に伴い習得されて行くのでしょう。英語自体のこの様な高度な概念の取り込みは、複雑な活用無き簡単に習得出来る言語特性と相俟って、同時に高度な概念も表明できる両面を持つ言語として圧倒的支配力を持つに至ったことを、十分納得させるものだろうと塾長は考えます。 ヨーロッパ大陸の「向こう側」の島国とアジア大陸の「こちら側」の島国日本とで、どちらも大陸側からの高度な概念を持つ言語の言葉を移入しつつも元々の言語構造は基本的に維持している面で、英語と日本語は似たところがあると感じます。いずれも高度な概念を表現可能な言語に発達していますが、日本語の方は漢字の音訓読みの複雑さなどもあり、外国人の中途学習者が例えば日本語の新聞を中学生並みに読み進めるのもなかなか難しそうに見えます。 |
||