入試和文英訳C 2020大阪大学U |
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2020年5月15日 皆様、KVC Tokyo 英語塾 塾長 藤野 健です。 和文英訳の問題を<解読>してみよう、のコラムの第4回目、引き続き阪大の入試問題を紐解きます。 入試英文添削の時と同じく、完成形?に至る塾長の考え、迷いなど思考のプロセスをご覧ください。他ではちょっと見られない企画だろうと思います。 以下、参考サイト:https://dictionary.cambridge.org/ja/dictionary/english/ |
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(B)(イ)本を読むときも、著者の考えをそのまま無批判に受け入れ、その内容について自分では考えないで他の人に伝えるのでは本を読む意味は有りません。大切なことは、読書を通じて、自分のそれまで持って居た考えや生き方を振り返って吟味し、さらには、自分の生き方を見直すということです。(ロ)歴史上の事実について書く事は傲慢なことだ。ペンを持つ人間は、既にすべてが終わっている特権的な場所から、実際には見ていないことをまるで見てきたように書くのだから。(阪大2020年前期 外国語学部以外)【和訳の基本戦略】*日本語に特に勿体ぶった修辞語句を加えたり衒学趣味的に漢語を用いたりはしておらず、極めて普通の日本語です。但し、逐語的に英訳すれば奇妙な英文となりますので、最初に行うべき事は、論理的表現且つ平易な日本語に置換する操作となります。*前回指摘したのと同様、(B)(イ)の最初の文は、頭の内容を整理せずに物事を主張する時の、言わばポッと出しの口語の様な体裁の文章です。どこが主語(主題)でそれに対応する述語がどれなのか、文章の構造がどうなっているのか、その意味内容としては今ひとつ明確性に欠けるところがあります。文章の土台である述語部の<本を読む意味がありません>に対する付帯状況・修飾語 (主題、主語含む) の配列がスマートに整理されておらず混乱している様に見えます。英訳する前に明確性の高い日本語に rewrite しないと訳せません。*日本語では話し手が一番叙述したいカナメの部分が文末に来て、一方英語ではカナメな部分を最初に持ってくる特徴を考え、<逆転法>で英文を作成する割り切りも有効だろうと思います。戦後まもなく出版された英語の教科書の Revised Jack and Betty 用の参考書(塾長の父親が使っていました)では、確か、漢文の返り点を付けるような文章理解の解説が為されていましたが、これには一定の合理性があります。(B)(イ)では<本を読む意味はありません>を英語の文頭で延べ、次いでその内容を順次継ぎ足していくとの単純明快な割り切りでも良いと思います。2番目の方は、<〜は大切です>を英語の文頭に持って来て文章を拵えますが、ここでは日本語の強調表現で、もともと文頭に置かれていますね。*(B)(ロ)の方ですが、<既にすべてが終わっている特権的な場所から>が意味不明です。<既にすべてが終わっている過去に対し、特権的な立場から>と解釈すべきでしょう。まぁ、推敲の足りない、よく見られる類いの悪文を入試にぶつけて来ましたが、普段から日本語の文章の改訂(これには絶対的な経験量が必要ですのでトシの功が矢張りモノを言います)には手慣れていない若き受験生泣かせの問題とも言えそうです。しかし、傲慢、特権の日本語が躍っています。もっと平易で適切な語の採用を考えたいところです。(B)(イ)の最初の文をカッコで括ると、(本を読むとき)も、{(著者の考えをそのまま無批判に受け入れ、その内容について自分では考えない)で他の人に伝える}のでは(本を読む意味は有りません)。とでもなりましょうか。まず、頭の中では本を読むときの内容を採り上げようと、<本を読むときも>と第一声を発し、次に言いたいことの内容を述べ、最後にその様なことをしていると読書する意味がなくなります、とまた付け加えるように本音を述べています。第一声で注意を喚起する訳ですが、文章としては<本を読む>が重複しています。まぁ、耳から時間的にリニアに聴いて理解する口語では、文章の一番最後に言いたいことのキモが配列する日本語の構造ゆえ、<今はこのテーマで話しています>の主題の提示を言葉を変えながら繰り返して差し挟んでいくことは極めて普通のことであり、活字化する時は重複を消し去ると良いでしょう。文章内での言葉の稚拙な重複は別として、科学論文などて相手に理解が難しいと思われることを記述する場合は、別の文章でくどいぐらいに(表現を変えて)言葉を繰り返して明示性を増す操作を加えますが、これは情報の重畳(ちょうじょう)性と呼び、意図して行うものです。【和文の大意】(B)(イ)*<批判的に読書し、自分の見解を伴い内容を相手に伝えることが大切だ>、<読書を通じて自己の来し方を振り返り人生の軌道修正を行うことが大切だ>ですね。(B)(ロ)*<歴史家は、変えることの出来ない、自分が経験もしていない過去を、好きな様に論評する点で傲慢だ>【英語化し易い和文への変換】*英語風な表現に変換すると(B)(イ)「著者の考えをそのまま批判せずに受け入れたり、内容をそのまま他人に報せるのでは読書の意味は無い。本を読み自分の過去を振り返り、今後の生き方を再考することが大切だ。」「著者が言うことを批判せずに本を読み、或いは自身でレビューすることなく単に中身について他人に知らせるならば時間の無駄になる。読書を通じて過去にいかに生きたか、未来になにをすべきかを君は再考すべきだ。」「著者が主張することを批判して読書し、中身を自分なりに批評して他人に伝えることが大切だ。それは、自分の過去を振り返り、将来を考えるのを助けるだろう。」(B)(ロ)「歴史について書く事は傲慢だ。なぜなら、動かせない過去、実際には自分が見ていない過去を、まるで見てきたように特権的に書くことだから。」「歴史家は自分勝手だ。というのは、変えられない、経験し得ない過去の真実をあたかも見てきた様に自由に書くからだ。」*塾長はワープロを使いながらこのコラムを書いている訳ですが、文章の順序を入れ替えたり語句を品詞変換して移動したりが容易に出来ます。ワープロも利用出来ない受験会場では日本語−日本語変換も楽では無さそうですね。*前回も述べましたが、阪大の和文英訳は、日本語の交通整理をするのに時間が喰われてしまうと改めて感じます。【英文化の要点】おさらいとなりますが、*大意を掴んだ平易な英文をまず作り、今度は日本語の文意に正確に近づけるべく、英語の表現を練っていきます。流れとしては、@和文の修辞をはぎ取り論理的且つ平易な文章に直すA自分の知っている平易な英語にさっとひとまず英訳(これでそこそこの配点は得られる)B和文原文のもつ意味合いに修整、推敲(時間的余裕があれば)となります。 |
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