謙譲・丁寧・曖昧表現G |
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2023年4月15日 皆様、KVC Tokyo 英語塾 塾長 藤野 健です。 modal verbs の過去形 could, would, might を用いて、非直接的な奥ゆかしい表現(謙譲表現)や丁寧な物言いをする用例をこれまでに紹介して来ました。そこで本コラムでは、modal expressions の解説シリーズ中に飛び入りさせますが、この様な謙譲表現、更には曖昧表現、丁寧表現、それと関連表現についてについて纏めて解説して行くことにしましょう。これらは互いに重複するところがあります。 日本語を学習中の外国人から、日本語には敬語表現が有りこれを使える様にしないと日本ではまともに勤務にありつけず苦労すると指摘されます。実際、英語には宗教的表現を除き基本的に敬語はありませんがそれでも丁寧表現は存在します。自分の意図をオブラートを被せてソフトに丁寧に伝える表現であり、自分の伝えたい中身や自己主張を曲げるものではありません。この辺の誤解の無きよう。日本語の敬語表現(尊敬語・謙譲語・丁寧語)との性質の違いを考えて見るのも面白いでしょう。 その第8回目ですが、今回からはシリーズの最後として euphemism<婉曲表現・語句> について解説して行きます。 英国ケンブリッジ英語辞典の用例を主に参考に解説を加えて行きます。 https://dictionary.cambridge.org/https://dictionary.cambridge.org/grammar/british-grammar/hedges-justhttps://dictionary.cambridge.org/grammar/british-grammar/vague-expressionshttps://www.studiobinder.com/blog/what-is-a-euphemism-definition/https://www.grammarly.com/blog/euphemism/ |
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euphemism <婉曲表現・語句> とは以下、下記のサイトに掲載される内容を参考にして構成したものになります: https://www.studiobinder.com/blog/what-is-a-euphemism-definition/https://www.grammarly.com/blog/euphemism/euphemism 定義 (ユーフェミズム)the use of a word or phrase to avoid saying another word or phrase that may be unpleasant or offensive, or the word or phrase used:不愉快または不快と思われる他の言葉やフレーズを言うのを避けるために、ある言葉やフレーズを使うこと、またはその言葉やフレーズのこと。婉曲表現、婉曲語句。*日本語では<語弊>があるゆえに別の表現を遣うべき、とされるシーンが多々あります。例えば、死、不幸、病苦、性的表現など、口にすると相手が不快に感じたり立腹する類いの用語を遣わざるを得ないときは、穏やかな言葉に言い換えたすることが求められます。こちらが何を言いたいのか聴き手側が察することの出来る<やや離れた、仄めかし言葉に置き換えて表現する訳ですが、英語にも−おそらくほぼ全ての言語にも−類似の言い換え表現が多々あり、その様な言葉や表現方法を euphemism と呼びます。これは相手の立場や場の雰囲気を尊重すると同時に、発言する側の身を守り好印象を保つのに必要な言語表現ですが、一種の丁寧表現、敬語とも言えますね。*この様な表現は普段から英語遣いをしている native にはスンナリと意味が通じますが、 non-native が字面通りの辞書的な意味解釈を行ってしまい誤解が生じる危険性も併せ持ちます。例えば die 死ぬ、の言い換えで pass away とするのは極めて一般的ですが、英語に不慣れな者は単純に <遠くに行った> としか思いつかないかもしれません。以下使用例:Senior citizen" is a euphemism for "old person".Senior citizen "(年長の市民)は "old person "(老齢の者たち)の婉曲表現です。The article made so much use of euphemism that often its meaning was unclear.その記事は婉曲的な表現が多く、意味がよくわからないことが多かった。The phrase “left to pursue other interests” is a euphemism for “fired.”"left to pursue other interests "(別の興味を追い求めるためにここを去ります)という言葉は、"fired "(解雇される)の婉曲表現です。--------------------------------euphemism とは何か?*婉曲表現とは、不適切または不快と思われるフレーズや言葉の代わりに使用される適切な表現です。婉曲表現は、日常会話や文学において、ある人が不快に感じるかもしれない言葉を置き換えるためによく使われます。*婉曲的な表現は、文学、特に古い作品において、下品な表現で検閲の対象となるリスクを冒すことなくメッセージを伝える方法として一般的に使用されています。婉曲表現の例“Passed away” instead of “died” "死亡 "ではなく "逝去"“Let go” instead of “fired” " クビ "ではなく "手放す"“Make love” instead of “sex” "セックス "ではなく "メイクラブ"“Put down” instead of “euthanized” "安楽死 "ではなく "鎮静"--------------------------------euphemism はどの様な場合に使われるのか?*婉曲的な表現は、文学の世界でも日常会話でも、いたるところで見受けられます。しかし、婉曲表現とはそもそも何のために使われるのでしょうか?その意味をより深く理解するために、以下その機能を見て行きましょう。婉曲的な言葉を使う理由は1つでは無く幾つかが考えられます。1. 不快な言葉を避けるために特に過去の保守的な時代には、不快な言葉やタブーを避けるために、日常会話で婉曲表現が良く利用されました。婉曲表現が使われる最も一般的な話題は、性表現についてです。例えば、“making love,” 「愛し合う」、“the birds and the bees,”「鳥と蜂」、“going all the way” 「とことんやる」などは、性的な行為について話す時に使われ、当時の者にとっての不快な言葉を直接口にすることはありませんでした。昔は、文学に於いても性的な描写が道徳的に或いは更には法律的に問題があるとされて来ましたので、その様な男女間の営みがあることを、書き手と読み手が<阿吽>の呼吸で伝達できる言葉を使い描写されました。現今は、その様な言葉に対するタガが緩みましたが、formal な場、公共放送の場などでは厳しい制限がとり続けられていますね。その時代の宜しとされる水準を超えて仕舞うと、例えば猥褻物として検閲され有罪となる場合もあります。表現の自由と<当局>とのせめぎ合いですが、例えばD.H. Lawrence の Lady Chatterley 『チャタレー夫人の恋人』 を巡っては、各国で発禁にもなりましたし、国内でも伊藤整の訳本を巡り裁判が長期化しました。今となっては大したことでもない様な場面描写が当時はけしからんとされた訳ですが、不快な言葉の規準が時代により揺れ動く一例です。私は 70年代後半にはFEN (在日米軍極東放送)の毎週土曜日の昼から3時間掛けて放送される All American Top 40 を聴いていましたが、そのチャートに上がる Bob Dylan の楽曲を聴いた折に、ピーという音で歌詞が消されているものがありました。(少なくとも在日米軍の)公共放送にて流せない歌詞との判断で検閲が課せられたものと思います。当時の許容水準を超えていたのでしょう。2. キャラクター特性の描出映画や文学の中で特定の人物が婉曲表現を使っている場合、その人物はどちらかというと保守的であったり、不適切な言葉を使うことに気を配っている人物と判断できます。無難なバージョンの文章を言うという選択は、彼らの性格、生まれ育ちを端的に表します。まぁ、日本語で言うところの人前でTPOを弁えられる人物であることを表出出来ます。勿論、人前では無いウラの場では汚い言葉を<思わず>使うことも人間としてあるでしょう。3. 時代を設定する道具婉曲表現は、物語の時代背景によって変化したり、明確さが変動することが多いのです。小説や映画、テレビ番組では、婉曲表現はその時代の風俗を表現するために使われることがあります。或いは昔の映画が放映される場合に、<不適切な表現が見られますが、当時のまま放映しています、ご理解下さい>などのテロップが出ることがたびたび有ります。人の身体的特徴、病い、身分などを端的に表す表現が制作等時はまだ許容されてはいたものの、現在に於いては差別的表現として糾弾される危険性が出ているための hedge ですね。現在でも、思わずその様な言葉を生放送中に口にしてしまい以降出禁となる者も少なくは有りません。これに対しては一種の言葉狩りとの批判も存在します。これを上手く利用すれば、その時代の社会の文化的規範を正しく描写するのにも役立ちます。例えば、1920年代の作品にはその時代の性描写に関する婉曲的な表現を用い、1970年代の時代設定には同じことを別の婉曲表現で表しもします。4. 言語表現の多様性をもたらす婉曲表現を通じて作家は創造性を発揮し、文章に多様性を持たせることができます。言い換えを通じてフレーズが単調にならない様にできる訳です。婉曲表現に拠り、詩的で、文字通りの直接な言葉では表現できないようなイメージを作り出すことができます。例えば、Shakespeare シェイクスピアは Othello 『オセロ』 の中で、 “the beast with two backs” 「背中が二つある獣」 のフレーズで性交渉の婉曲表現としています。この例は、単に2人が性交渉していたと言うよりも、イメージと多様性の両者を作り出しています。 |
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文学に於ける euphemism婉曲表現によって、不穏な言葉を使うことなく会話をすることができます。例えば、上司が従業員に“fired” 「クビ」ではなく “let go” 「手放す」と言うのは、衝撃を和らげる狙いがあります。しかし、文学における婉曲表現の例はどうでしょうか。George Orwell’s 1984, ジョージ・オーウェルの 『1984年』 では、ディストピア社会のプロパガンダを描くために、物語の中で婉曲表現が使われています。この本の中では、“newspeak” 「ニュースピーク」 がオセアニアの公用語になっています。“forced-labor camp” 「強制労働収容所」の代わりに“joycamp” 「ジョイキャンプ」が、“Minister of War.” 「陸軍大臣」 の代わりに“Minipax”「ミニパックス」 といった表現が使われています。 『1984年』 における婉曲な言葉の使用を通じて、オーウェルは、強力なプロパガンダで市民を欺こうとする政府の試みを効果的に批判しています。--------------------------------TV に於ける euphemism作家が婉曲表現を使う理由のひとつに、物語の時代設定を確かなものとするが挙げられます。これは、時代劇を執筆或いは制作する時に特に当てはまります。時代劇における婉曲表現の役割とは何でしょうか。理解を深めるために、いくつかのテレビの例を見てみましょう。例えば、1960年代のアメリカ社会は、文化的に今よりも保守的でした。『Mad Men』のパイロット版では、脚本家のマシュー・ワイナーがこの保守的な文化を描写するために婉曲表現を用いています。ピート・キャンベルが、女性が多くの男性と寝たという表現を独自に作り出しているのですが、この婉曲表現でさえも、1960年代当時には不快に映るでしょうが、当時の言葉がいかに保守的で丁寧であったかを示しています。これは、時代劇を書くときに重要な点です。これらの例からわかるように、婉曲表現は単に下品な言葉を避けるための手段ではありません。文学や脚本において、社会規範を正しく再現し、それを批判するために使用することができます。作家として、自分が創造している世界とそこに住むキャラクターを反映させる手段として、婉曲表現の使用が検討されます。まぁ、時代考証との話に落ち着きますね。 |
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