謙譲・丁寧・曖昧表現H |
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2023年4月20日 皆様、KVC Tokyo 英語塾 塾長 藤野 健です。 modal verbs の過去形 could, would, might を用いて、非直接的な奥ゆかしい表現(謙譲表現)や丁寧な物言いをする用例をこれまでに紹介して来ました。そこで本コラムでは、modal expressions の解説シリーズ中に飛び入りさせますが、この様な謙譲表現、更には曖昧表現、丁寧表現、それと関連表現についてについて纏めて解説して行くことにしましょう。これらは互いに重複するところがあります。 日本語を学習中の外国人から、日本語には敬語表現が有りこれを使える様にしないと日本ではまともに勤務にありつけず苦労すると指摘されます。実際、英語には宗教的表現を除き基本的に敬語はありませんがそれでも丁寧表現は存在します。自分の意図をオブラートを被せてソフトに丁寧に伝える表現であり、自分の伝えたい中身や自己主張を曲げるものではありません。この辺の誤解の無きよう。日本語の敬語表現(尊敬語・謙譲語・丁寧語)との性質の違いを考えて見るのも面白いでしょう。 その第9回目ですが、引き続き euphemism <婉曲表現・語句> について解説して行きます。 英国ケンブリッジ英語辞典の用例を主に参考に解説を加えて行きます。 https://dictionary.cambridge.org/https://dictionary.cambridge.org/grammar/british-grammar/hedges-justhttps://dictionary.cambridge.org/grammar/british-grammar/vague-expressionshttps://www.studiobinder.com/blog/what-is-a-euphemism-definition/https://examples.yourdictionary.com/examples-of-euphemism.html |
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euphemismの様々な定型的表現*全ては網羅出来ませんが、良く見られる、或いは面白い婉曲表現を見て行きましょう。大方は、死、病、性、排泄、各種の障害等に関する表現になります。*normal な直截表現を、 diplomatic/ sensitive の用語で、或いは humor 表現で言い換えます。死ぬpass way = die事実を客観的に伝えるニュース報道などでは die を使いますが、自分に親しい人、知っている人の死に際しては pass way を通常用います。これは日本のニュース番組然りですが、ウクライナ東部地区の戦闘でロシア兵600名が50名が死亡したと報道されますが、他方、顔の思い浮かぶ政治家や芸能人の死亡に際しては、逝去しました、亡くなりました、との表現が利用されます。これには当人に対する個人的な繋りの気持、尊敬の念が込められていると考える事も出来そうです。まぁ、心情的な関係性の有る者に対しては pass way が使われる訳です。be passed on = be deadkick the bucket (informal) = dieバケツを蹴る、ですが、ちょっと乱暴な表現ですね。死にやがった、などの語感でしょう。意味は分かっていても、自分から使うのは控えて下さい。*死に纏わる英語の動詞表現については以下のコラムをご参照下さい:https://www.kensvetblog.net/column/202106/20210615/吐くblow chunks, pray to the porcelain god, be gugging the toilet = throw up呑みすぎた挙げ句のことですが、便器の前にひざまずいて神に祈る姿勢から。これは若い学生には分からずに、どこか教会にでも行くのですか?と通じない事もある様です。日本で登山中にキジ撃ちに行く、お花を摘みに行く、といっても登山初心者には通じないのと似ていますね。lose one's lunch = vomit, egaugigate, t hrow up折角食べた昼ご飯を失う、ですが、日本語だと最近はリバースする、などの表現も見られます。トイレに行くhave to go number one = pee, number two = poop, blow out子供が良く使う表現ですが諧謔表現として大人も使います。トイレに行くのが周囲に知られるのが恥ずかしいので、1番、2番と表現します。実は、日本の飲食業、接客業(デパート含む)では、顧客に知られないように、「1番」に行きます=食事休憩、「2番」はいります=15分の休憩、「3番」に行きます=トイレに行く、などの符牒、隠語が現在でも普通に利用されます。まぁ、業界用語、仲間内用語ですね。顧客に聴かれても角を立てない工夫でもあるでしょう。do one's business = poop上の表現よりは端正な言い方になります。powder one's nose = go to the toilet女性の表現。お化粧を直しに行くわ、です。肥 満be big-boned = be fat, be overweight太っている、デブとは言わずに、骨太と表現します。これは男女問わずに利用可能です。日本語でも、只の贅肉親爺を、貫禄が付きましたね、などと巧みに言い換えます。be plus-sized = be fatchubby, plump マシュマロ女子、ぽっちゃり、ふくよかな、まぁ、物は言い様ですね...love handles = e xcess fat around the waistlineウェスト周りのぶよぶよの脂肪を握ると手に心地よい、から派生した表現なのでしょうか?性交渉make love = have sexロマンティックな、意味あるものにしたいとの気持を込めているとも言えます。日本語でも愛し合いたい、などと表現しますね。馘首let (someone) go = fireアナの女王の歌詞ではなく、丁寧なビジネス用語になります。You are let go. お仕事を離れて戴きます。= You are fired. 君は解雇だ(これは非常に強烈な表現になります)、の丁寧表現になります。家族の前で自分が解雇されたことを言う場合も、I was let go from my job.などと刺激的では無い表現を使う時もあります。入社面接に来た者に対して、あなたは別の場で可能性を探すことをお勧めします、などの<お祈りメール>が届くことがありますが、euphemism letter が来たぜと笑い飛ばすのも豪快ですね。be between jobs = be temporalily unemployed仕事と仕事の間にいる、と表現すると、解雇されて無職なのか、職探ししても雇用されないのか、自己都合で遊民状態を享楽しているのかをボカすことが出来ます。まぁ、相手はいずれかを直ちに察知する筈ですが、配慮して当たり障りの無い対応をして呉れるでしょう。馬鹿だnot the sharpest tool in the shed = a person who is not smart; stupid; an idiotアイツはちょっと(いや相当の)馬鹿だ。最上級の否定表現ですが、英語には、一番〜と言う訳では無い、の表現で、月並み、凡庸、或いは逆に底辺を意味する場合はそこそこ見受けられます。日本語でも、相手を憎からず思って居る=愛してる、の、奥ゆかし過ぎる?表現もあります。小屋の中の一番鋭い道具ではないのか、なるほどそこそこなんだ、などと思っていると、アイツに加えお前も阿呆だったのか思われますで、ご注意のほどを。古びたvintage = oldボロボロのタンスでもビンテイジと呼ぶと、途端に歴史の後光が差して価値がある様に感じさせる効果も確かにありそうですね。万引きfive-finger discount = shoplifting5本の指遣いで商品をポケットやバッグに入れて只で入手する訳ですが、諧謔の精神が感じられます。性器privates/ private parts = genitals極めて個人的な身体部位ですが、日本語で言うところの<隠しどころ>に相当しますね。男女性器についての用語 はごまんと存在しますが、公共の場で表現出来る語、即ち euphemism は可なり限定されると思います。大方は放送禁止用語の類いですね。ヌードbe in one's birthday suit = be naked生まれた時の服装とは素っ裸のことです。これもユーモアを感じる表現ですね。日本語でも同様に、生まれたままの姿で、と表現します。 |
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euphemismの様々な文章表現*上で述べたような、pass way の様に、ほぼ定型的な言い換え表現が存在しますが、offensive, negative な物言いを避けるべく、巧みな言い換えをその都度工夫して作り上げることも出来ます。それらの幾つかを見て行きましょう。安楽死The vet gave Joeya lethal injection.獣医はジョイに致死性の注射を与えました(=安楽死させた)。→The only option that the vet had was to pu t Joey to sleep.獣医の行える唯一の手立てはジョイを眠らせることでした。解雇The CEOfiredJohn.CEO はジョンを解雇しました。→After his interview with CEO, John is now seeking a career-change oppotunity.CEO との面談を終え、ジョンは今は職歴変更の機会を探っています。Simon has beenfired.サイモンは解雇されました。→Simon has beendehired.サイモンは雇用 されていませんでした。攻撃Wewill attackthe regime.我々は一丸となって政敵を攻撃します。→Our active defencewill be initiated against the regime.我々の防御活動は政敵に向けて開始されるでしょう。景気後退Arecessionis pending.景気後退が懸念されています。→A period of negative growthhas been forecast.マイナス成長の時期が予想されています。不可能The task isimpossible.その仕事は不可能です。→The task willraise some unique challenges.その仕事は何か独特の困難を高めるでしょう。死ぬWhen did Jackdie?ジャックはいつ死んだの?→When did Jackpass way?ジャックはいつ亡くなったの?When did Jack give up the oxygen habit?ジャックはいつ酸素の習慣を止めたの?(ユーモア)*英文で何を語っているのか不明な文に出会った際は、敢えて曖昧な物言いをしているのではないかと一度勘ぐってみて下さい。*その先を言ってはお仕舞いだ、マズいとばかりに、あとは読者側の想像に任せる訳です。これが分からずにweb 上の質問コーナーなどに、この文は何を言っているのか分からない、文法的にも正しいのですかなどと疑問を寄せる者が出ますが、もしかするとこいつは何も分かっていない天然系だ、と呆れられるかも知れませんね...。 |
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euphemismに利用される単語euphemism だと身構えて利用することがなくても、聞こえの悪い語句を別のまだしも無難な単語に言い換える例は枚挙に暇がありません。例えば <explicitあからさまな、露骨な>は、https://www.etymonline.com/word/explicitAs a euphemism for "pornographic" it dates from 1971 (phrases such as sexually explicit are earlier). Related: Explicitness."pornographic" の euphemism としての explicit は、1971年の使用に遡る (sexually explicit 性的にあからさまな、などの語句はもっと早くから)。とあります。次第に性的な意味表現へと性格を強めても行った訳ですね。現在では、ポルノ、そのものを指す形容詞としても利用されます。一般的な辞書には、この語に、明らかな、などの間延びした訳語を第一に当てていますが、社会で用いられる言葉の実際の意味、第一の意味用法に注意をしないとミスを招く事もあります。学術論文などでは、全てを率直且つ明確に記述する指命があるゆえ、euphemism は用いられませんが、文学作品、特に性的な描写に強い社会的な規制が掛けられていた時代のものでは、そのようなシーンを雲を掴む様な記述で書き抜けていることが多々あります。作家側の苦労の痕を辿りながら深読みするのも面白いかもしれませんね。euphemism に関する解説はこれで終わりとしますが、英語表現の<別の世界>に注意しつつ英語を読み解くのもまた一興かと思います。今回で謙譲・丁寧・曖昧表現のシリーズを終え、次回からは様態表現に戻り、その1つである準法助動詞表現に解説を加えて行きます。 |
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