比較を表す表現5 |
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2024年10月10日 皆様、KVC Tokyo 英語塾 塾長 藤野 健です。 前回シリーズまで、似ている、近い、異なる、唯一だ、の表現、について扱って来ましたが、その根本に存在する精神作用は2つの事象、事物を比較することにあります。そこで、同じだ、異なる、のシリーズの次として、個々の語句の意味用法即ち語法ではなく、構文(=文の構造)としての比較表現について、極く単純なものは除き、慣用的に用いられるものも含め、一通り触れて行きましょう。 基本は文章言葉ですし、また、もともと簡潔明快な、non-native 含め誰もが誤解無く、意味を掌握出来る表現を理想とする学術論文、特に自然科学系の論文に於いては、簡易な表現は別として、<込み入った比較構文>が登場する事はまずは無いのですが、塾長の経験からは、社会科学系や人文科学系の教授の講演記録集などでは、その様な表現が口述の修辞としてそこそこ使われるのを見ています。まぁ、話し手側の教養をさりげなく示す武器となります。また、日本の大学入試などにも決まり切った様に出題される表現も含まれますので、その観点からも知っておいて損はないだろうと思います。このシリーズは過去のコラムの各所にて断片的に述べて来たことの纏めとしての位置づけでもあります。 最初に、我々日本人には特に意味の取りにくい、否定の比較構文について、ガッツリ進めて行きましょう。このシリーズの第5回目となります。更にこの先の予定としては、各種英語構文の内、やや難解なもの−同格構文、挿入構文、共通構文、強調構文、倒置構文、省略構文、否定構文(比較構文以外のもの)−を中心に順次触れて行く積もりです。まぁ、語法の解説が長く続きましたので今度は切り替えて再び文法だ、と言う次第です。 英国ケンブリッジ英語辞典並びに Collins 英語辞典の用例を主に参考に解説を加えて行きます。 https://www.collinsdictionary.com/jp/dictionary/english/not-so-muchhttps://www.ldoceonline.com/jp/dictionary/no-more-thanhttps://www.collinsdictionary.com/dictionary/english/no-soonerthanhttps://www.collinsdictionary.com/dictionary/english/all-the-morehttps://www.collinsdictionary.com/jp/dictionary/english/would-rather『チャート式 英文解釈』 鈴木進、数研出版、昭和51年、第8章 比較構文ここの例文を幾つか参考にしていますが、一部、より現代的な表現となる様、書き換えたものも併記しています。https://www1.lib.kanazawa-u.ac.jp/en/recordID/handle/2297/43377?hit=-1&caller=xc-searchNo more A than B 構文の認知言語学的・語用論的分析、廣田, 篤人間社会環境研究 Human and socio-environmental studies, vol.30: 23-29, 2015 (紀要論文)ISSN: 1881-5545http://hdl.handle.net/2297/43377Abstract:In this paper, we will investigate in detail the nature of the No more A than B construction. First, we will see this construction classified into several categories based on the formal differences among them, and then, those corresponding semantic differences will be explored. In particular, we will focus consistently on than -phrases of No more A than B construction, which will turn out to be characterized through the actual usage of several sentences as … Read morehttps://core.ac.uk/download/pdf/236558884.pdf英語辞書の問題点−特に比較構文について−坂井孝彦 |
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否定の比較構文5 クジラ構文とイルカ構文3(前回からの続き) A is no more B than C is D.------------------------------------ロングマン現代英英辞典の説明https://www.ldoceonline.com/jp/dictionary/no-more-thanno more ... thanused to emphasize that someone or something does not have a particular quality or would not do something誰かや何かが特定の資質を持っていないこと、あるいは何かをするはずがないことを強調するために使われる、とあり、*要は口語での意味用法のみについての解説になっています。掲載例文He’s no more fit to be a priest than I am!= He’s no more fit to be a priest than I am fit to be a priest!= He is not fit to be a priest just as I am not.僕が牧師に適していないのと同じく彼は適していない!→彼が牧師に適していると言うなら僕が遣ってやるぐらいだ。→オレがダメなんだから奴が勤まる訳ないだろ!の解釈でしょう。I*I am fit to be a priest. が事実と異なると言う事を本人が認識している若しくはその発言を耳にする周囲のものがそれはないだろうと既に分かって居る、との前提でこの解釈は成立します。*即ち、古典的な<クジラ構文>からは逸脱した<軟弱化>している<イルカ構文>表現になります。*上の表現中で、<I am>が間違いである、そして彼も私も共に劣位である、との強い否定的感情的表現であり、まぁ、要は、妬み、悔しさの籠もった、浅ましい脚の引っ張り合いの感情発露ですね。*<クジラ構文>が共に否定されることを中立的冷静に比喩的に叙述するのに対して、<イルカ構文>は感情要素が多分に加味された、口角に唾を飛ばすような表現になりますね。逆に言えば子供っぽい口喧嘩に傾きますね。*non-native の多くには意味が取れませんので、勿体を付けずに最初から、He is not fit to be a priest just as I am not. と言って呉れれば良いだけの表現です。*会話中に登場する表現形態<イルカ構文>は、我々 non-native に向けて使われることはほぼ無い筈です。(辞書、参考書の記述の比較の項はこれで終わり) |
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*A is no more B than C is D. の対照表現について*more を less に換えるだけですが、和訳の仕方がちょっと変わって来ます。A is no less B than C is D= A is quite as B as C is D.CがDである事に全く劣らずAはBである。CがDである事実にAがBであることがレベル的に劣るものではない。→CがDであるのと同様にAはBだ。*than の後ろを肯定に訳すのが大きな違いになります。*と言いますか、字義通りに読んで日本語に訳せばそれで終わります。A is no more B than C is D. が 共に事実では無い、両否定の表現であることに対し、A is no less B than C is D は、共に事実である、両肯定の精神作用ですね。The technique of writing is no less difficult that that of the other arts.文章を書く技術は他の芸術の技法に劣らず難しいものである。= The technique of writing is quite as difficult as that of the other arts.= Writing is quite difficult compared to other arts.A book about science must be no less a pleasure to readthan a book of any other sort.科学についての書物は、他のどの種類の書物とも同じく(劣ることなく)、読んで楽しいものでなければならない。= A book about science must be as quite a pleasure to read as a book of any other sort.= A book about science must be as enjoyable to read as a book of any other kind.They will not be added to your list, but they lives no less successful, and perhaps, happier, lives than those whose names have become familiarto the world.あなたのリストに加わることはないだろうが、彼らは世間にその名が知られるようになった人たちに劣らず成功し、おそらく幸せな人生を送っている。= They will not be added to your list, but they lives quite as successful, and perhaps, happier, lives as those whose names have become familiar tothe world. |
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一見紛らわしい no more than の類似表現A.以下の表現では、no more than が分離した形で用いられ、一見すると上で採りあげた<クジラ>構文に類似します。*しかし、文意としては、単なる比較表限、即ち、〜以上のものはない、、以上と言う事は無い、同程度だ、の意味であることが分かります。*(any) more than の後ろに<間違っていることがだれにでも分かる>記述が無い点で<クジラ構文>ではないと取り敢えずは判断出来ますね。*上にも述べましたが、実は<クジラ構文>も何も無く、単に、〜以上の程度では無い、を表す表現に過ぎない訳です。*than 以下に荒唐無稽なことが述べられて居れば、その荒唐無稽な程度を越えること無く〜だ、の意味になるに過ぎない事に改めて留意して下さい。1. All we require is a retail theory, which may be no more extensive than is needed to make sense of these particular prohibitions.私たちが求めるものは、正に小売店理論ですが、これはこれらの特定の禁止事項を理解するのに必要な、丁度良い広さかもしれません。= All we require is a retail theory that is just as extensive as what is needed to make sense of these particular prohibitions.*ここでの than は主格の関係代名詞(先行詞を含む)として機能し(本邦英文法では疑似関係代名詞などと呼称される)、上記 no more A than B の構文とは異なっています。基本的な意味合いは同じですが。*必要とされる何らそれを超える広さでは無い→丁度良い広さだ2. There is no reason to think that future medical advances will proceed with a neat simultaneity any more than they have in the past.将来の医学の進歩が、これまで以上に、きちんとした同時性を持って進むと考える理由はない。(前と同じままだろう)= There is no reason to believe that future medical advances will proceed with greater simultaneity than they have in the past.*ここでの than は目的格の関係代名詞として機能し(疑似関係代名詞)、than 以下は先行詞 simultaneity に掛かります。上記 no more A than B の構文とは異なっています。*これまで持って居るもの以上の同時性を持って進むことは無いだろう、です。3. Nothing will make one observe more quickly or more throughly than having to face the difficulty of representing the things observed..観察されたものを表現することの難しさに直面せねばならぬことほど、人をより素速く、より深く観察させるものはないだろう。*nothing A...more than B Bする事以上にAなことは全く無い → Bする事が一番だ、の定型表現になります。------------------------------------*B.3回前の9月20日附けのコラムにてcannot be any more +形容詞cannot do any moreの用法に注意しましたが、ここに再掲します。*こちらは、もうこれ以上〜である、〜することはあり得ない、取り得ない、最高だ、を表す口語表現になります。*まぁ、最上級を表す表現になりますが、この様に否定の比較級は一筋縄では行かず、解釈が面倒です。*裏に回ったヒネた(感情)表現の性質を持つ事が理解出来るかと思います。*cannot, could not を前に利用することで、<あり得ない>との感情的強調を付加する表現であると理解は出来ます。A could not be any more different from B.= A could not be any more different than B.*この文の解釈は、not + any = no だ、即ち×A could be no more different from B.AはBに対して全然異ならない、寧ろ等しいぐらいだ、とはならず、◯A is not likely to make any more difference to B.AはBに対してもうこれ以上の違いを取りようにない。→AはBに対して最高に異なっている、全く異なっている= A could be utterly different from B.→AとBとの差は最大限に開いている。The difference between A and B is maximal.となります。*同様に、口語表現の I couldn't agree more. ですが<全くその通りです>、と強く同意する時に用いる表現になります。*字義通りでは<もうこれ以上賛成のしようが無い>ですが、賛成の度合いが最高だ、の意味になります。*I couldn't be more pleased. <最高に嬉しいよ。> も良く聞きます。*まぁ、連語の no more than の意味とは大きく異なりますが、前後の文脈から真意を理解することは可能でしょう。*直接にモノを伝えずに裏返しにモノを言うヒネた表現ですが、婉曲で丁寧だ、とも扱われる訳です。*non-native には意味が分からず混乱させられる表現ですね。*後の否定表現シリーズに解説する cannot. too 構文と気脈は通ずるところはあります。注意He's tall.彼は背が高い。(周囲の者と比べると背が高い)He's as tall as his brother.彼は彼の兄と同じ背の高さだ。(二人の身長が同じだと言っているだけで、二人揃って背が低い場合もあり得る)He's not as tall as his brother.= He's not so tall as his brother.彼は兄ほどの背ではない。= His brother is taller than he.*注意:等しいことを not を用いて数学的に単に否定する表現では無く、前者が後者より劣っていることを示す慣用表現です。*等しいことを単に数学的に否定するのであれば、彼が兄より高いケース、或いは彼が兄より低いケースがあり得ますが、ここでは not as = not so と解釈します。*(現行の)文法上 not so ...as と言うべきところを口語ではnot as...as と表現するとの話です。*実は語源的に as = so ですので口語表現が間違いと決めつけるのもおかしいと言えます。*更には文の前半 He's not so tall から、He が世間並みより背が低い、ことを示す意味合いも出て来ます。*この場合の解釈は、He と his brother 共に背が低く、He は更に背が低い、のニュアンスになります。He's not quite as tall as his brother.= He's not completely as tall as his brother.彼は完全に兄と同じほどの身長だと言う訳では無い。(notquite は部分否定表現)→ 彼の背は兄より幾らか低い。*A対Bの比較の否定が、AがBの程度に達していないとの劣位を表すネガティブな意味合いとして一般的に捉えられていることが分かりますが、これは実は上にて扱った no more than の文章にも基本的に存在するニュアンスであると理解して戴ければ良かろうと思います。*no more than の場合は、更に両者とも劣位であるとの含みを明確に持ち得る表現になりますね。*これらからも、比較の否定表現は、感情が渦巻く表現である事−文意が揺らぐ表現形態である事−がお分かり戴けるかと思います。 |
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